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経済産業省 原子力安全・保安院
原子力安全技術基盤課
課長 市村 知也 殿 2012年9月18日
ストレステスト意見聴取会に関する公開意見書
-保安院意見聴取会の終了にあたって-
ストレステスト意見聴取会委員 井野 博満
ストレステスト意見聴取会委員 後藤 政志
私たちは、この意見聴取会において、原発の総合的安全性確保の考え方や意見聴取会の枠組みと意味、技術的な意見など述べてきましたが、節目にあたって、特に申し述べたい意見を提示いたしますので、HP上に公開していただくとともに、今後の原子力安全規制に反映すべく原子力規制庁に申し送りいただくよう強く求めるものです。
1. 原子力規制委員会および規制庁のあり方について中立性と透明性を求める
この間、意見聴取会における原子力安全・保安院は、原子力発電所の安全性について、事業者から独立して規制する役割をはたしてこなかった。事業者からの説明を検証不十分なまま追認する傾向があり、安全性を確保するためと言いながら、何とか審査を通そうと、事業者寄りに立った審議の進行をしてきた。特に、利益相反の委員が進行の中心になり、保安院がそうした委員たちの意見をもとにまとめてきたため、著しく中立性を欠く審査結果となった。
今後、ストレステストの審議をおこなう際には、独立した公正な原子力の安全規制をいかにして実現できるかとの観点から、事業者と密接な関係にあるJNES職員や利益相反委員を排除し、透明性を持って中立・公正な運営を実施することを強く求める。
ストレステスト意見聴取会では、傍聴者の「不規則発言」を理由に途中から傍聴者を排除し別室での傍聴にしたが、審議が全くできなくなる特段の理由がない限り、こうした対応はおこなうべきでない。このような傍聴者の締め出しが、原子力安全・保安院に対する不信をまたひとつ積み重ねたことを反省すべきである。
筆者らは、原発事故の際の被害を直接受ける地元住民や市民が議論に参加することの重要性を、第1回ストレステスト意見聴取会で強調したが、受け入れられなかった。今後の審議に当たっては、ぜひそれを実現していただきたい。筆者らが提案したような委員会審議に直接市民が参加する方式のほか、客観的なデータの分析を中心とした専門家による議論がある程度すすんだ段階で、市民を交えての意見聴取会を開催するという審議方式も考えられる。原発再稼働の是非を判断するにあたっては、科学的・技術的検討の上に立って、地元住民・市民の判断こそが重視されるべきと考えるからである。専門家は、その判断のための助言者とでもいうべき立場ではなかろうか。
2. 原子力安全に関係する法律上の抜本的な見直しと安全審査のやり直しを求める
原子力基本法第一条に「この法律は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。」 (下線筆者)とあるが、福島事故により、原子力の推進自身を見直すべきことが明らかになった。それゆえ、規制委員会にて、省令第62号に関わる技術基準や安全設計審査指針、耐震設計審査指針、安全評価指針などの指針類を、抜本的に見直すべきである。特に、今回の事故でわかった様々な欠陥を、これらの指針類の改訂に反映させる必要がある。
その上で、全プラントに対して、安全審査のやり直しをすること。暫定措置にすぎないストレステストの実施のみによって再稼働をすべきでない。
3.ストレステストの一次評価と二次評価は一体のものとして実施すべきである
そのことは、福島第一原発事故の経緯から明らかである。二次評価を抜きに再稼働を議論することは間違いである。
福島事故では、地震・津波に襲われた後、1号機~3号機の3基すべてが炉心溶融を起こし、さらに炉心溶融デブリは格納容器まで達した。格納容器の過温・過圧破損や格納容器ベントおよび水素爆発等により、大量の放射性物質を放出した。4号機の原子炉建屋も水素爆発を起こし、今も使用済燃料プールがむき出しになった危険な状態にある。こうした事故の経緯から、炉心溶融までの一次評価だけを対象にして評価し、二次評価を無視したまま再稼働の条件が整ったとすることは、「福島事故から全く学んでいない」と言わざるを得ない。
一次評価だけで再稼働にむすびつけることが政府が決めた絶対的な方針であるとして、保安院は審議をすすめた。だが、安全性に関して何をどこまで確認すべきかは、政治ではなく、原子力安全規制側が決める問題である。その枠組みを「政府が決めたこと」として議論しないことは、安全性の議論を放棄したことになり、国会事故調の報告書で強く指摘されている規制の独立性の欠如をを示す問題でもある。
4.評価基準がないまま実施するストレステストは、安全性の証明にはなら
ない。判断基準や指標を明確にすべきである。
大飯3・4号の判断基準とされた「福島第一原子力発電所を襲ったような地震・津波が来襲しても、同原子力発電所事故のような状況にならないことを技術的に確認する」という考え方は、判断基準とは言えない。個別原発の状況を無視して、津波高さを一律に9.5メートル上乗せするのは無意味である。また、福島事故では地震による致命的損傷はなかったという前提で、各原発の基準地震動Ssを評価の起点として、その何倍まで耐えられるかを示しているが、国会事故調の報告では地震による損傷の可能性が強く示唆されており、この判断基準は事故調査の結果からみて不適切である。
ストレステストにおいては、このような形式的な数値でなく、実質的な判断基準や指標を使うべきである。具体的には、
* 「技術的知見に関する意見聴取会で中間とりまとめ」の30項目の対策として提起した技術課題は、すべて確実に対策を実施すること。特に、格納容器ベント用フィルターの設置、免震重要棟の設置などの対策は必須である。
* 外部電源系統の信頼性を考えると、変電所、開閉所設備、鉄塔等の耐震性は弱点であり、強化は急務である。非常用電源の多重性と多様性の強化も具体的に信頼性の高いものにするべきである。
* 冷却系については、IC(隔離時復水器)が機能しなかったり、SR弁(逃し安全弁)が機能せず原子炉圧力を低下できなかったり、まともに機能しなかった。これは、決して津波のせいではなく、個別機器の性能やシステムの問題で、事故時に対策が役に立たなかったことを意味している。システム設計全体と個々の機器やバルブ、計器類の圧力・温度条件等を見直す必要がある。
* 事故の経緯をみると、原子炉の水位計が機能喪失し、他の多くのセンサー類も過酷事故時に機能していなかったものが多々ある。現状のままでは、いずれも事故の拡大を防ぐことはできない。対策を明確にすべきである。
5.小手先の対策でなく、設備本体の抜本的な変更をおこなうべきである
* BWRの格納容器圧力抑制機能の喪失、格納容器過圧・過温破損、PWR格納容器の水素爆発対策、格納容器内における水蒸気爆発の回避についても確実な対策をすべきである。格納容器ベントの抜本的な見直しも必要である。マークⅠ型格納容器については、炉心損傷後の格納容器内の溶融デブリの冷却も、格納容器スプレイでは冷却できていない可能性が高いので、直接、格納容器下部(ペデスタル)に注水すべきである。
* 使用済み燃料プールの設計見直し。BWRの使用済み燃料プールの位置は高いので、耐震性および、冷却する上で、不利になるので再検討すべきである。また、PWRについても同時に再検討をしておくべきであろう。
* 従来考えてこなかった問題を評価すること。例えば、航空機落下や人的な破壊工作、地震・津波その他の複合災害として船舶の事故や大規模火災なども検討すること。
* 機器の多重故障や人為ミスなどを前提に改善をおこなう。
* これらの抜本的な対策ができないプラントは廃炉にする。
6.最も確実な安全対策は原発を稼働しないことである
福島事故以降に出されてきた地震や津波に対する専門家の警告からみて、最大規模の地震の津波を特定することは、現時点では、ほぼ不可能に近いと思われる。さらに原子力プラント直下の活断層の見落としや活断層の長さの過小評価、新潟県中越沖地震において地層の状態による数倍もの地震動の増幅が柏崎刈羽原発で確認されたこと、海岸地形や海底地形および複数波の重なりによる津波の増幅など、自然現象をどこまで予測できるのかは明らかではない。
したがって、地震や津波は、震源等を特定して評価するだけではなく、震源を特定しない地震規模を大幅に見直して、耐震バックチェックを行うことが必要である。
40年廃炉ルールは、例外なく厳格に適用されるべきである。原子炉圧力容器の照射脆化等により老朽化した原発は、40年を待たずに直ちに廃炉にすべきである。
原発の安全性を最も確実にする方法は稼働しないことである。再稼働判断が必要になった場合でも、完璧な安全対策などできないことを共通の基本認識とすべきである。
その上で、放射線防護と事故時におけるプラント内外の放射線測定システムの強化、およびSPEEDIによる放射性物質拡散予測の公開の具体的な方法を示すことなど、防災対策を徹底すべきである。
以上
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